トーラック(TOLAC)とは?産科が慎重になる理由!コウノドリ第4話のテーマ

毎週期待以上の感動を与えてくれるドラマ「コウノドリ」。第4回のテーマはトーラックだそうです。トーラックって聞いたことありませんでしたがなんなんでしょう?また簡単に予習してみたいと思います。 

トーラックとは?

トーラックとは Trial of labor after cesarean section の略でTOLACと書き、帝王切開での出産経験のある妊婦が次の出産で経膣分娩(自然分娩)を試みること、だそうです。
 
確かにわたしの周りでひとり目の出産が帝王切開だった場合はふたり目以降も言わずもがな帝王切開を病院から言い渡されそれに従っているようですが、それには当然理由があってのこと、逆らってトーラックを選択して不成功となり結局緊急帝王切開になる確率は30~50%と非常に高く、大きなリスクがあるようです。 
 

トーラックの主なリスク、デメリット

〇子宮破裂の可能性が高いこと(過去に帝王切開で切開した際の傷の箇所が陣痛の子宮収縮により裂けてしまう)
 
〇赤ちゃんの脳性麻痺や死亡率が高いこと
 
〇トーラック不成功により子宮全摘出の可能性があること
 

〇上記不成功例により出血量,輸血量が多くなること

〇母子ともに感染のリスクが高くなること

〇赤ちゃんの臍帯動脈血(赤ちゃんのおへそから胎盤へ向かう血液)pHが低下すること(呼吸・循環不全につながる)
 

なかでも注意が必要な子宮破裂

子宮破裂とは、子宮体部に起こる裂傷をいい、多くは陣痛による強い収縮時に起こります。突発的で大量の腹腔内出血と腟からの出血を伴うことで母子ともに死亡する可能性のある救急疾患であり、迅速な診断と適切な治療、また輸血を行う緊急手術が必要になります。
 
命をとりとめても子宮全摘出しなくてはならなくなったり、赤ちゃんに重篤な脳性麻痺が残ってしまうなど重大なリスクにつながります。
 
子宮は胎児の成長に合わせて最初握りこぶし大だったものが最終的に臨月になるとドッジボール大にまで大きくなり、陣痛が始まると今度は激しく収縮を起こすといったように、柔軟に伸縮可能なゴム風船のような組織であるべきはずが、過去の出産で帝王切開を受けていると子宮にメスが入って縫合した傷が残っており、その箇所はメスが入っていない箇所と比較するとやはり組織が固く伸びにくく、耐久性が弱いことで破れやすいと言えます。
 
よって次の妊娠・陣痛による伸縮に耐え切れずにその個所から破れてしまう、つまり子宮破裂が起こってしまう確率が帝王切開の経験のない妊産婦に比べ高くなってしまいます。
 

子宮破裂が起こるとどうなる?

赤ちゃんは子宮の中で羊水に浮かび胎盤から酸素や血液をもらって成長してきましたが、子宮破裂が起こることにより突然その環境が失われてしまいます。

胎盤は機能しなくなり酸素を取り入れることができなくなり、肺呼吸をしたくても子宮からお母さんの腹腔内に飛び出しただけですので酸素があるわけがなく、その状態が続くことで低酸素状態、窒息してしまいます。

お母さん側も当然、子宮が破れているわけですからその箇所から大量に出血しており、迅速に止血措置がなされなければ命の危険に及びます。
 

トーラックのメリット

こんなに重大なリスクを抱えたトーラックですが、メリットを確認してみましょう。
 
ちなみにコウノドリ第4話での安めぐみさん演じる妊婦さんは、自分が上の子に対して愛情を持って接することができていないと感じるのが帝王切開で産んだことが原因ではないかと思い込んでいるという設定のようです。
 
経膣分娩と帝王切開と、出産方法で生まれた子供に対する愛情が変わるなんてあるとは思えませんが、一昔前だと出産は腹を痛めて痛い思いをして産んでこそという時代もあったようですのでそういうこだわりを持つ妊婦さんがいる可能性はあるのかもしれません。
 
さて、一般的なトーラックのメリットはというと、
 
〇入院期間が短縮できること
 
〇疼痛が減少すること
 
〇出血量と輸血使用量が少なくなること
 
〇母児の感染のリスクが低いこと
 
〇分娩後血栓症発症リスクが低いこと
 
〇癒着胎盤など帝王切開反復による合併症のリスクが低いこと
 
 
帝王切開経験のある友人たちがこれらのメリットをあきらめても2度目3度目の出産時に医者の勧める通り帝王切開を選んだのは、やはり上に述べたリスク・デメリットのインパクトが大きかったからだそうです。
 

トーラックを受ける上での準則

トーラックを希望したら誰でも受け入れてもらえるのではなく、一応ガイドラインによると下記準則に従って行われるべきものとされているそうです。受け入れるにあたり条件を設けているのですね。
 
日本産科婦人科学会&日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン―産科編2014』によると、
 
〇リスク内容を記載した文書によるインフォームドコンセントを得る。
 
〇以下の要件をすべて満たしている場合にトライアルできる。
 1)児頭骨盤不均衡(CPD)がないと判断される。
 2)緊急帝王切開及び子宮破裂に対する緊急手術が可能である。
 3)既往帝王切開回数が1回である。
 4)既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が良好であった。
 5)子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない。
 
〇分娩誘発あるいは陣痛促進の際に,プロスタグランジン製剤を使用しない。
 
〇経膣分娩選択中は,分娩監視装置による胎児心拍数モニターを行う。
 
〇経膣分娩後は,母体のバイタルサインと下腹痛に注意する。
 

トーラックを受け入れる病院側の対応・体制整備 

病院側でトーラックを受けるにあたり整えるべき体制としては、とにかく短時間で胎児をとりあげられるように分娩を進めるのが第一にありながら、
 
〇トーラックが不成功となったときの緊急帝王切開術手術への切り替え対応準備(設備・対応・医師)
 
〇分娩室でそのまま帝王切開術ができるような設備整備
 
〇新生児蘇生の体制準備
 
などが求められます。
 
つまりそういう設備や体制が見込めない病院では希望も控えたほうが自分と大切な赤ちゃんの命を守ることにつながります。
 
コウノドリ第4話では安めぐみさん演じる妊婦さんの望みを叶えてあげたい鸛鳥サクラ先生と、医師不足や子宮破裂のリスクを心配する四宮先生との間でまた意見が対立するようですが、結果的にどういう決定がなされるのでしょうか。
 
前回の川栄李奈演じる無痛分娩をやめたいと言い出す妊婦さんをうまく説得したように今回も帝王切開するよう納得させることができるのか、それともそれらのリスクを承知で妊婦さんの願いを叶えてあげるのか、楽しみです!
 

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2 件のコメント

  •  私の姉の第一子は自宅近くの大学病院で緊急帝王切開となりましたが、第二子は経膣分娩で生まれました。私自身の第一子は少し離れた職域病院で子宮筋腫核出術を同時に行うべく、予定帝王切開でした。第二子の出産にあたり、長子の世話もあるため、自宅近くの産科専門病院に経膣分娩の希望を伝えましたが応じてもらえず、ベテラン助産師のいる助産院に相談したところ、緊急の場合は日赤に搬送するということで受け入れてもらえました。
     この助産院では子連れでの入院が可能でした。臨月まではすこぶる順調で、途中日赤を受診しカルテだけは作ってもらいました。予定日当日深更、陣痛の間隔が狭まり助産院に行くも、逆子(足位)のため、助産師同乗で日赤に救急搬送され、陣痛・分娩室に。モニタを装着し、職員は別室へ。その状態が続く中、腹部に異常な熱を感じ、看護師を呼んでもらったところ、急遽オペ室へ移され、執刀開始。医師らの会話から子宮破裂を知りました。
     幸い、母子ともに無事、二週間弱の入院で自宅に戻りました。安全を考えれば第二子も帝切とは言われていましたが、姉のこともあり、今思えば恐ろしいことですがタカをくくっていましたね。四半世紀も昔のことですが、帝切だからといって痛みがない、ラクなお産というわけではありません。授乳のたびに、赤子の足が十数センチに及ぶ傷にあたって激しく痛みましたし、その後数年間は悪天候のたびに傷が疼いたものです。
     経膣でないから母性が育たないとか言う方がいるんですか? 大きなお腹を抱えて十月十日過ごすことになんのかわりもありませんのに。夫の叔母二人や私の姉も帝切経験者だったため、義母からも実母からもとくに何も言われませんでした。また、私自身のアレルギー体質を気にかけ、予防の意味からも二人の子どもは完母で育てましたし、それなりに満足のいくお産・子育てでした。
     お産をめぐる様々な状況の下、苦しまれる方がいなくなるよう、理解を広げていただきたいですね。

    • 折原泉様
      ブログを読んでいただき、そして貴重なお時間を使ってコメントしてくださりありがとうございます!!
      お姉様はトーラックして成功(VBAC:ブイバック)、折原泉様ご自身は子宮破裂という大変なご経験をされたのですね。お姉様、そして折原泉様、お子様みなさまご無事で本当に良かったです!貴重な体験をお話しいただきありがとうございました!
      折原泉様は上のお子様のお世話のこともあってトーラック希望されたのですね、コウノドリのドラマでは「帝王切開したことが原因で上の子に充分な愛情を持って接することができない」と思い込んだ妊婦さんの設定でしたがドラマの中で医師や助産師さんも「それは思い込みに過ぎない、どう産んだかではない」と諭していました。
      でもこれは「順天堂式無痛分娩Q&A50」という書籍からの引用ですが「日本には”お腹を痛めて産んだ子”という表現が象徴するように「分娩時の痛みを乗り越えて赤ちゃんを産むことを美徳とする風潮やそのことがより良好な母児関係を築くという思い込みがある」」という記載があり、ドラマの中の妊婦さんもこういう考えが何かしらの形で受け継がれてしまったということなのかもしれません。
      ドラマ用にちょっとオーバーに描かれた可能性もありますが、もし同じようなお考えをお持ちの妊婦さんがいらして、そしてこの折原泉さまのコメントを読んでいただけて、そのような思い込みも解けるきっかけになってくれたら嬉しいです!
      そしておふたりのお子さんともに完母で育てられたとのこと、うらやましいです。
      折原泉様、貴重なコメントありがとうございました!

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